授業のガイドライン

はじめに

ここでは、Nekoalaの授業がどのようなガイドラインに沿って行われているのかを説明します。 なお、ここに書かれているガイドラインは、実際にNekoalaの講師の方にお見せするものです。 また、このガイドラインの内容は今後変わる可能性があります。

ここで行う議論は、教育の効果: メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化の内容を主なエビデンスとしています。 この本を、ここでは単に「参考文献」と呼称します。

参考文献での効果量の定義

参考文献では、生徒の学力が正規分布に従うことを仮定し、ある要因によってその分布が1標準偏差分良い方向に動いた場合、効果量を1としています。 したがって、効果量が正であれば、それは教育において良い要因であり、効果量が負であれば、それは教育において悪い要因であると言えます。 参考文献の著者は、様々な要因から、効果量が0.40以上の場合を「望ましい効果」としています。

しかし、ただ単に効果量が高いことをすればすべての生徒の学力が上がるわけではありません。これはあくまで、統計上の数字であり、個々の生徒においては 逆の効果を及ぼすことも考えられます。したがって、どの生徒にどのような授業をすべきなのかを、個々の講師の方々が考える必要があります。

また、効果量が低いからといって、それを実行する意味がないわけではありません。効果量が小さくても、生徒や講師の負担が小さくなるならば、実行すべきです。 例えば、参考文献内で行われた調査では、宿題を出すことによる効果量は0.29であると示されています。宿題を出すことによって生徒が勉強に嫌悪感を抱いている様子を 見せたのであれば、他の方法で指導内容の改善をするべきでしょう。

最後に余談ですが、参考文献で取り扱われている研究の多くは、アメリカのものです。したがって、日本では同様の効果が期待できない可能性があります。 例えば、参考文献では学力が正規分布に従うことを仮定していますが、日本の学力は正規分布には従わず、2つの山に分かれることが知られています。

絶対に正しい教育は存在しない

教育の形は、文化圏によって大きく異なります。例えば、私(戸村)が高校生のとき留学していたオーストラリアでは、性教育の一環としてコンドームの付け方の教育が 行われていました。しかし、多くの日本の高校では、このような教育は行われていません。

我々が当たり前だとおもっていることは、違う文化圏に行くと当たり前でなくなることが多々あります。 どのような教育が正しいのかを考えるのは、私を含め、一個人の判断に委ねるには大きすぎる難題です。

私達にできることは、様々な知見をもち、その場その場で最善と考えられる教育を施すことです。絶対にあってはならないのは、自分自信の過去の成功経験などを根拠に、 生徒に対して偏った勉強方法を提案してしまうことです。

それぞれの生徒に合わせた授業を模索する

生徒が希望する学習スタイルを実施することで得られる効果量は0.41であると言われています。 ここでいう学習スタイルとは、


などのことを指します。1対1の授業を行うNekoalaの利点は、授業の形式を自由に選べるという点にあります。たとえば、生徒がガムを噛みながら授業を受けたいと 言ったら、それを許可するべきです。講師の方の中には、ガムを噛みながら授業を受けることは倫理的に良くないと考える方もいるかもしれません。 しかし、我々が重きを置くのは勉強をする楽しさを伝えることと、学力の向上であり、倫理観の矯正ではありません。

絶対に叱らない・上下関係を作らない

生徒と講師の関係の良さは、0.72という高い効果量をもっています。参考文献の中では、温和さと共感、教師主導的ではないことが重要であることが 示されています。

叱るという行為は、温和さと共感を損ない、授業を教師主導的にします。 ここでいう叱るという行為は、間違いを指摘したり、他の方法を提示することではありません。 生徒の自尊心を破壊したり、恐れをいだかせるような言動を行うことです。 教育という点において、叱るという行為は一切必要ない行為のはずです。しかし、生徒を叱りつけることを教育の一環と考えている講師がまだいるように思えます。 絶対に生徒を叱らないでください。

日本は儒教文化なので、年上ないしは先生が、「偉い」立場に立つことが許されています。しかし、Nekoalaは、講師が偉い立場にいるとは考えていません。 生徒とは一定の距離感をもち、一緒に学習をするパートナーとしての関係を築くように努力してください。 これは、友達のように仲良くなるという意味ではありません。あくまで、上下関係を作らないように努力をするということです。

たとえば、私(戸村)がそのために実施しているのは、生徒に対して敬語を使うことです。 日本語の特性上、年上がいわゆるタメ語をつかって話をすると、2人の間に上下関係が発生しやすくなります。 もちろん、生徒と話す方法は任意に選んでもらって構いません。しかし、日本において生徒に敬語で話すことは、上下関係を作らないために効果的なものです。

目的を設定する

参考文献では、生徒の到達目標を、生徒と講師の両方がしっかりと理解していることの重要さが指摘されています。 到達目標の設定は、直接教授法(効果量0.59)やフィードバック(効果量0.73)で共通して重要視されています。

基本的に、授業はなにかしらの目標の達成の為に行ってください。例えば、「1つの教科書の内容を理解する」や「電流計の内部抵抗を調べる」、「幕府が鎖国を行った理由をまとめる」など、 様々な目標が考えられると思います。この目標を、生徒と私達(Nekoala)に説明してください。生徒からの了承が得られたら、目的を達成したことによって得られた成果物を、 ホームページで公開します。

能動的な学習を行う

能動的な学習について

近年、アクティブラーニングの遂行についての議論が盛んになっています。しかし、アクティブラーニングの定義は曖昧です。 したがって、ここでは能動的な学習の定義を、「答えが定まっていない問題に対する問題解決を目的とする学習」とします。 これに当てはまる学習法やツールの使い方は多々あるので、そのうちのいくつかを紹介します。

なお、私(戸村)は能動的な学習として、「講師ですら答えを知らない問の答えを見つける」授業を行うことをオススメします。 たとえば、私は生物のことを詳しく知らないので、ある植物が吸収する炭素の量はどのくらいなのかに興味をもちました。 私の生徒も生物に興味がある生徒だったので、一緒にこれを調べています。

探求的指導

探求的指導とは、実験などから得られた事象に対する説明を与え、その説明を支持または支持しない文献を集める方法を考え、集めた文献から得られた情報を分析し、 結論を導くまでをサポートする指導です。

探求的指導の効果量は0.40です。この値は、あまり大きなものではありません。しかし、批判的思考スキルに関しては、1.02の効果量があることが示されています。

問題解決的指導

問題解決的指導とは、問題の原因の明確化、解決方法の特定などを含む指導のことをいいます。問題解決的指導の効果量は0.61で、学力にかなり大きい 影響を与えることがわかります。

問題解決的指導には、インターネットで調べるという行為についての指導が必要になると思います。Nekoalaの講師は全員専門分野をもっているので、誤った 情報を含んだ文献をインターネット上で見つけた経験があるはずです。授業中に生じた疑問や問題は、すぐにインターネットや本の情報を用い、生徒と一緒に解決してください。 そのとき、どのような情報が有益なのかを、しっかりと指導してください。